魚がいなくなったら釣りは楽しめない!
リリースした魚は、きちんと生きているだろうか?
釣り具メーカー・スタジオオーシャンマークが実践「ポップアップタグリリース」プロジェクト
魚釣りは、当たり前のことだが、魚がいなければ成立しない。そして狙った魚が多ければ、アングラーはより楽しむことができる。そこで、資源保護、楽しい釣りをいつまでもできるようにと願い、リリースするという考えが生まれるが、果たしてその魚は生きているのか? それは魚によって、魚の扱い方によっても違うかもしれない。こと、常に泳いでいるとされる生態でリリースが難しいと考えられているマグロはどうなのか? そんな考えから釣り具メーカーであるスタジオオーシャンマークが昨年から研究を開始している。そしてその活動に国立大学法人・東京海洋大学も協力している。ここではその全貌をお伝えしたい。
リリースの必要性
冒頭で書いたように、釣りの未来にとってキャッチ&リリースは必要なことの一つである。「釣り人以上に漁師は獲っている! 釣り人が逃がしたくらいじゃ何も変わらない」といった意見もあるかもしれないが、もしも魚が減ったら、漁だけでなく「釣りでのキープによる影響」も騒がれてしまう。そして規制ができ、釣りができなくなる。釣り人が制限なくキープしていいというのは、魚が多いことが前提だ。ただここで執筆しているのは、どんな魚でもキャッチ&リリースを推奨するというものではない。記者自身も、リリースを推奨しているプロの釣り人、釣り具メーカーなどの釣り人であっても魚はキープする。美味しい魚は食べたいと思う。ただその魚は、資源が枯渇しない豊かな魚、そしてサイズや匹数、キープの時期(産卵期などは獲らない)などを自らが考え、もちろんルールがあればそれに従い行っている。魚がいなくなったら、楽しい釣りができなくなることを知っている、感じているからに他ならない。
色々な釣り人と話をしていると「昔はよく釣れた!」という言葉を耳にすることがある。これは海洋環境の変化などによって起こっているものもあり、魚の種類によっても異なると思うが、実際少なくなってしまった魚は多い。漁でも釣りでも、しっかりと資源について考えながら行わなくてはいけない時代に突入している。世界的に行われているSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の取り組みの中で14番目にも「海の豊かさを守ろう」と掲げられており、世界的に考えなくてはいけない事となっているのだ。
リリースの方法とその道具
そんなことから釣り人は釣れた魚を時としてリリースすることとなるが、リリースの仕方にもいろいろとある。また、魚によっても方法が異なる。船上に上げてしまうと暴れる魚、海底付近からの巻き上げによって体内の浮袋が膨らみ潜れなくなる魚、海中から出しても強い魚、弱い魚によっても変わる。各魚のリリース方法の詳細については、今回は省略させてもらうが、そのいずれにも共通しているのが、魚を極力弱らせないようにすること。釣り上げたら素早く行うことはもちろんだが、魚にできる限り触れないことが大切である。その中で最も良いのは、船内や陸地に上げず、魚を触らずにそのまま釣り針を外してリリースする方法だ。魚を手で触ることで、魚には少なからずダメージが加わる。ただ魚によっては一度船内や陸地に上げないと釣り鈎が外しづらい場合もあるだろう。そのような魚をネットなどを使用して取り込んだ場合も、やはり極力魚には触れないようにするのが一番となる。
このように魚を手で触らずに魚をしっかりと保持し、鈎外しを確実に行えるアイテムを、釣り具メーカー・スタジオオーシャンマークでは釣り具業界内でいち早く開発、販売してきた。まず登場させたのが魚の口を掴み保持するフィッシュグリップのオーシャングリップ。初代オーシャングリップの発売の時代には魚を掴むアイテムは海外製のものが一部あったのみだったが、より使いやすいモデルを開発した。今や同様の魚を掴むアイテムは様々なメーカーのものが発売されているが、オーシャングリップはその性能の良さから多くの釣り人に愛用されている。
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調査のためのリリース方法
魚をリリースする方法は、一般的にはそのまま魚を水中へと戻すが、海ではその魚の生態調査のためにタグを打ってリリースする場合もある。そのひとつがタグ&リリース。これは、標識放流とも呼ばれ、番号が記載されたスパゲッティータグと呼ばれるものを魚体に刺してリリースするというもの。その魚が再び漁や釣りで捕獲され、その記載番号を報告することで移動距離やサイズ変化が分かるといものだ。研究のために多く行われているリリース方法だが、様々な結果を知るためには「採捕」されることが必要となる。
またリリースした魚のその後の動きをより確実に知ることができる調査リリースの方法もある。それがタイトルにもある「ポップアップタグリリース(sPAT; Wildlife Computers社)」だ。これは、ポップアップタグという外洋性大型魚類の調査用に開発されたもので、日出没時刻を推定するためのセンサーと水深を推定する圧力センサーが付いており、それらを記憶するメモリーが備えられているタグ。タグはあらかじめ設定した期間が経過した後に魚体から離れる仕組みになっており、浮くことで蓄積されたデータが陸上でキャッチされ、その魚の動きが把握できるというもの。ポップアップタグは、マグロやカジキなどの大型魚の回遊や行動の研究のために使われているが、高価なためにスパゲッティータグのように大量に打つことは個人では難しい。しかし採捕されなくても、リリース後の一定期間のデータが取れる利点がある。
「リリースした魚は本当にきちんと生きているのか?」。そんな疑問を持った時、ポップアップタグなら大型魚には限定されるが、リリース後の水深の上下移動、移動距離が分かり、移動が見られれば生きているということが確実に分かるのだ。
クロマグロのリリース方法の現状
これまで、日本におけるクロマグロリリース調査の実績は少ない。クロマグロは泳ぎながら海水を口から取り込んで呼吸しているため、泳ぎをやめるとダメージが大きく弱ってしまう魚。しかし、海外ではポップアップタグによる調査が進んでいる国もあり、その結果は釣り上げるまでの時間次第で90%以上とされている。だが、場所が違えば結果が異なる可能性もある。それならば調査が必要だ。
そこでスタジオオーシャンマークでは、資源を極力減らさずに釣りを楽しむためにはキャッチ&リリースが有効であるという考えから、昨年2022年から自社でポップアップタグのリリースを開始した。そして同時に自分たちで、安全にかつ確実にリリースする方法を研究している。そんな活動の様子を、2023年8月上旬に函館松前沖で取材させてもらった。メンバーは、スタジオオーシャンマークの代表・大塚隆氏、札幌のルアーショップで北海道のクロマグロゲームを牽引するノースキャストの平中彰彦氏、東京海洋大学・海洋生物資源学部門の秋山清二 教授、同学部門の宮本隆典 助教授。遊漁船は、スタジオオーシャンマークのリリースプロジェクトの考えに賛同し協力的なロブスター。オールリリースの釣行だ。ちなみに現状、スタジオオーシャンマークで行っているのは下記の方法である。
① 釣り人が船べりまでクロマグロを寄せ、船長がリーダーを掴むと同時に、ギャフを口の内側から下アゴ、またはカンヌキに慎重に通す。頭側は神経が集中しているので、キズ付けないように注意して行う。
② クロマグロを保持したら、船上に素早く上げる。※今回、協力していただいた遊漁船ロブスターは、船の後方を開けることができる、そこからクロマグロを引き上げやすい。重い魚体は、船上に上げるのは通常の舷では大変であり、時間が掛かりすぎる。ロブスターのように、魚を船上に上げやすい構造の船がベストとなる。
③ 上記のやりとりの間に、同船者は長さの目盛りが書かれているシートを用意。さらにクロマグロの口から海水を送り込むホース、濡れタオル、オーシャングリップ(OG2920HD等、20㎏まで計量可能なモデル)を4本用意し、シートの4隅の穴にグリップ先端を掛けておく。シートも濡らしておく。
④ クロマグロをシートの上に引き上げ、暴れないように目の上に濡れタオルを掛け、口から海水をホースで流し込む。素早くルアーを外し、シートの目盛りで長さを確認するとともに、ポップアップタグを刺す。
⑤ 4人でフィッシュグリップを持って持ち上げ、各フィッシュグリップの重さの目盛りを確認(各メモリの重さを足して、魚体重とする)。そしてそのままシートから滑らすようにリリースする。今回は船の後方の開けた部分から行った。
この作業を皆で協力しながら行う。そのため、最低でも4人は必要。今回は30㎏未満の小さいものは船上に上げずにフックリムーバーHR550L-PROモデルでリリースしつつ、60㎏にポップアップタグを打ちリリースした。この60㎏のクロマグロのキャッチからリリースまで、撮影していた写真の情報で確認すると僅か1分30秒だった。ちなみに今回のポップアップタグは、30㎏以上の魚体に対応するとのこと。打つサイズの上限は無いが、ある程度の時間内で船上まで上げ、船上で計測できるサイズとして上限を60㎏ほどとした。ちなみにこのサイズが多く回遊している時期、高水温期を狙って、あえて8月上旬の函館に入った。函館沖には特大サイズももちろんいたが、30~60㎏の狙い通りのサイズが多く回遊していた。
実際のリリースの様子
リリースの結果
今回のリリースプロジェクトは、クロマグロがリリース後に生きているかを知るため。その活動に今回同船した東京海洋大学の秋山清二 教授も昨年のリリース開始から賛同してくれている。今回は実際にリリースの仕方を見てもらうとともに、キャッチ後のリリースのやりとりにも協力してもらった。さらにスタジオオーシャンマークは、この活動において秋山清二教授と各書を交わし、データが揃ったら論文で発表してもらうことになっているという。
さて、そのポップアップタグの結果であるが、9月上旬にきちんとタグが浮かび上がった。そしてクロマグロはきちんと生きていた。そのデータが下記の表。毎日、上下動を繰り返しているのが生きている証拠であり、この活動の仕方も興味深い。ちなみにタグが浮いた場所は積丹沖。実際、この後の函館松前沖のクロマグロの状況を聞いたところ、クロマグロは姿が少なっていたとのこと。ポップアップタグの結果とともに、群れが北へと移動したのだと推測できる。
これまでスタジオオーシャンマークでは、2本のポップアップタグを打ち、どちらもリリース後の生存が確認できている。ただ、2本ではまだ少ない。もう少しタグを打ち、さらにデータを取る必要がある。しかし高価なタグであるため、次々と打つことはできない。来年以降は、未来のマグロ釣りのために釣り業界、マグロ釣りの道具を扱っているメーカー、釣り船などに協力を仰ぎ、さらなるデータを取りたいとスタジオオーシャンマークは考えている。ちなみに、すでに株式会社 魚矢、株式会社エイテック、ノースキャストからプロジェクト協力会社として資金協力を受けているという。
2023年ポップアップタグリリースの結果
マグロタックル
今回の釣行は、前述したようにオールリリースで行われた。そのため、少しでもクロマグロにダメージを与えないように短い時間でのキャッチが要求される。そこでトルクがあり、マグロとの距離を詰めやすいベイトリールを使用したジギングをメインにして釣り上げる方法がとられた。水中で反応が出ている層を船長に指示してもらい、フォール主体のスローピッチジャークで探っていく。使用するジグは、素早く指示層まで沈められ、潮の流れに巻けないように300g~400gをメインに使用。ロッドはノースキャストの平中氏にオススメを聞いたところ、タカミテクノスMOZ624LM NCカスタムや、CBONEのブレーバー66/6がベストマッチとのこと。リールは、トルクがありドラグ性能も高く、ヒット後はグイグイと寄せたいため、スタジオオーシャンマークのNO LIMITS ブルーヘブンL100Lo、L80Lo(ローギヤモデル。ドラグMAX14㎏)を使用した。マグロとのファイトは、巻ける時に少しでも巻いて距離を縮めなくてはならない。そんなことからマグロジギング用に巻き上げ力を高めたモデルとなる。ラインはPEラインの6号、8号。リーダーは130lb、150lbで挑んだ。もちろん、オーシャングリップ、フックリムーバーは必携アイテムだ。そして結果として、2日間で6本のクロマグロをリリースした。
クロマグロのリリースは、日本での実績はここ数年。しかしメーカー、プロアングラー、ショップスタッフなどがその方法を模索、研究し、形が出来上がってきている。いつまでもクロマグロ釣りを遊漁で楽しめるように、多くのアングラーの協力が必要であるが、アングラーズタイムも協力するとともに、釣り人にとって良い未来を期待したい。
ポップアップタグ・プロジェクト資金協力会社
株式会社 魚矢
株式会社 エイテック
ノースキャスト(札幌)