自己記録更新の真実

ロウニンアジを愛し、
ロウニンアジに愛された男
大久保幸三のGTへの想い

長年、ロウニンアジ=GTを追い求めてきた大久保幸三さん。これまでさまざまな釣りを行い、ターゲットを狙ってきたが、その中でもGTに対する想いは強い。人生をかけて、この魚と対峙していきたいという。そんなGTフィッシングで、自身の歴代最大となるサイズを信頼のできるタックルで2025年春にキャッチ。大久保さんにとってまだまだ続くGT道ではあるが、彼のGTフィッシングと釣り上げた時の様子をここで紹介しよう。

ロウニンアジを愛し、<br>ロウニンアジに愛された男<br>大久保幸三のGTへの想い

大久保幸三のGTとの出会い

大久保幸三さんといえば、現在はYouTube「Fishing Super Star Kozo Okubo」で活躍し、さまざまな釣りの魅力を発信し続けているが、彼の本質はやはり大物釣り師だ。中でもGTには、ひときわ強い想いを抱いている。

Youtubeチャンネル(Fishing Super Star Kozo Okubo)

「今から45年以上前、小学校4年生の頃、雑誌で屈強な男性が3人で協力しながらGTを釣り上げ、誇らしげに写っている写真を見ました。場所はトカラ列島の臥蛇島の木場立神。23、24kgくらいだったと思いますが、男たちが3人で釣り上げて笑顔になる魚がこの世にはいるんだと衝撃を受けたのを覚えています。そしてこの時にいつか、この魚を釣り上げたいと思いました」
この時の大久保少年の将来の夢は「釣りのプロ」。そこから様々な釣りにのめり込み、釣りで生きていくことを模索。現在に至っていると言う。ただ、大久保さんのこれまでの長い釣り人生の中で、やはりGTという魚が常にトップにあった。そのため他の釣りは、GTを釣るためのスキルアップという考えがあるとのこと。エリアフィッシングのトラウトですらGTフィッシングに繋がると感じているという。今やっている釣りの全てがGTフィッシングのためなのだ。
「人生をGTフィッシングに費やしていると言い切れます。小学生の頃に思い描いたGTを釣り上げる夢は、18歳の時に実現しました。ダイビングの仕事で行った先でのGTフィッシングの初釣行。場所は西表島でした。GTロッドはまだこの世に存在していない時代で、15ftのシーバスロッドを使用しました。この時に一番強いと言われているルアーロッドで、リールはPENNの750、ラインはナイロンの30lbにショックリーダー100lbでした。ダイビングでGTがいる場所が分かっていたので、そこにボートからキャスト。ポッパーにGTがヒットし、竿先が水中に刺さったまま、なかなか動かなかったのを覚えています。その時、とんでもないサイズの魚が掛かってしまったと思いました。ダイビングの時に水中で見た魚ではなく、それ以上、船と同じくらいの魚が掛かってしまったのではないかと」
上がってきたのは26kgほどだった。ただ、船ほどの大きさの魚を想像していただけに思っていたサイズとは違かった。この時の人生最大魚であったが、複雑な心境だったという。ただ、ここから更にGTという魚の強さにのめり込んでいくことになる。そしてその数年後、日本のGTフィッシングの第一人者である石垣島のフィッシャーマンの鈴木文雄さんに会い、GTフィッシングとの向き合い方がより深くなったという。
GTフィッシングに出会い、そしてそれから自身のGT道を追求してきた大久保さん。そしてその魅力、ベストなタックル等を様々なメディアで伝えてきた。
「雑誌『ソルトワールド』では、「魚」偏に“強い”と書いて「ロウニンアジ」という造語を生み出し、「ロウニンアジへの想い」と題した記事を何度も掲載していただきました。そうした誌面を通じて、GTフィッシングの魅力や奥深さを伝えることができたのは、僕にとって非常に大きな出来事だったと思います。GTを追い続けるこの人生の中で、確かな足跡のひとつとなっています」

今回は屋久島に釣行。時化続きで、島周りでのGTフィッシングになったという。そんな中、ヒットすることを信じ、信頼できる、自信のあるロッド・KOZエクスペディションS77GT /3でキャストをし続けた。

自己記録を更新する巨大GT

今なお自身のYouTubeで発表しつつ、GTにたびたび挑み続けている大久保さん。フィールドは、国内、海外と様々。以前より少なくなったというGT釣行日数だが、それでも年間30〜50日。大物のキャッチを目指し、自身のスタイルで狙い続けている。そしてそんな大物をキャッチするために、スミスにおいてエクスペディションシリーズの開発を続けている。ちなみにGT対応モデルでは、50kgオーバーのサイズを想定したスペックを装備。「数は釣れなくて良い。デカいのが釣れれば良いという考えでやっています」。そして今年度、自己の最大となるGTをキャッチ。場所は、屋久島であった。
「今回は3日間、GT狙いで屋久島に入りました。ロッドは、スミス・KOZエクスペディションS77GT /3。ラインはいつも通り、PE12号を選びました。初日はサメばかりでGTは釣れず、2日目は同船者が1本キャッチ。この時は、私も投げていましたが同船者が掛けたことで回収。僕はいつも誰かがフッキングしたら、それ以外の人は回収してもらいファイトを見守ってもらうようにしています。ただその回収時に、私にもヒットしてしまいました。しかしこの魚はフックアウト。ただ改めて思い返すと、掛かったのはかなり大きいGTでした。ハリが伸ばされ、キャッチには至りませんでした。通常なら伸びない強靭なフックですが、ダブルヒットで慌てて処理をしようとしたことで、きちんと掛かっていなかったのかもしれません」

同船者の井上さんがキャッチしたGT。

サメのヒットが続いた、1日目、2日目。サメでもしっかりとファイトをして寄せるのが大久保流。

翌日、最終日。この日もGTはなかなか出なかった。GTからの反応がない時間帯が続いた。雰囲気として、状況がより悪い方向へ向かっている感じだったという。風も強く、海も荒れ気味。そして、大雨が降ってきた。そんな中、レインウェアを羽織り、エクスペディションS77GT /3でG-CUPをフルキャスト。S77GT /3はポッピングの使いやすさを追求したモデルであり、大型カップのルアーでもしっかりと泡を出させたポッピングを演出できる。そして着水して3回目のポッピングで喰ってきた。水深は35mほどだった。大久保さんは胴の間で投げていたこともあり、ヒットした瞬間がよく見えず、喰ったのはサメかと思ったという。
「掛かった魚は重すぎるし、強すぎたため、やはりサメと思いました。泳ぐスピードも速かった」
強靭なロッドをしっかりと曲げつつ、ハイドラグでファイトをしているにもかかわらず、凄まじいスピードでラインを出していった。
「水深15mほどの場所になり、そこで浮かしにかかり一瞬魚が見えましたが、長さがあり、100kgくらいの魚に見えたため、やはりサメと思いました。ただGTらしい首を降る動きを見せました。もしかしたらGTかもしれないと考え、慎重にファイトしました」
そこから魚との攻防は続き、S77GT /3のロッドパワーでプレッシャーを掛けつつ寄せてくると、サメではなくGTだった。ひと目で、デカいと思ったという。長さがあり、太さもあり、体高もある個体だった。

「実は、上がってきてネットインする時、ネットのトラブルがありました。GTはポッパーを飲み込んだ状態で浮いており、ネットインを待っていると、なんとフックからGTが外れてしまったのです。すると通常ならあり得ないことですが、船長が『飛び込みますか』と言いつつ飛び込んでGTをキャッチしてくれたのです」
そしてネットイン。素早く船長は船上に上がり4人がかりでランディングしたという。ランディングまでのファイトタイムは9分だった。
「ここまで大型のGTでなければ、浮いたGTが潜るのを待ったかもしれませんが、船長もこのGTは簡単に釣れるサイズではないと考え、飛び込んでくれたのだと思います。これには賛否両論あるかもしれませんが、結果として膝の上に魚を乗せて撮影することができたのでありがたかったです。マンガ・釣りキチ三平のような瞬間でした」

圧倒的な迫力、力強い面構えのGT。強い引きを、エクスペディションS77GT /3がしっかりと受け止めた。長さは167cm。推定85kg。抱卵していると思われる個体だったため、「しっかりリリースできて良かった」と大久保さんは振り返った。

GTは、蘇生用の生簀に入れられたのだが、そこにいっぱいいっぱいのサイズであったという。その生簀は船長がどんなGTでも入るように作ったというもの。それを見て、船長が「こんな大きいGTがいるんだ!」と呟いたという。想定外のサイズだったのだ。しかもお腹はパンパンであり、抱卵していると推測できる個体であった。
「長さは僕の人生で2番目の長さ。一番長いのは海外で釣り上げた168cm。今回のGTは167cm。今回の船は計りが壊れており、メジャーも積んでいなかった。そこでリーダーを添わせて、全長を計測してカット。同船者の皆で確認しながら若干短めにカットしました。そして後に空港でメジャーを借り、リーダーの長さを計測して長さが判明しました。ちなみに抱卵しているGTを釣り上げたのは、今回で2回目です。前回は、150cmで70kgありました。今回も抱卵の個体で、厚みはかなりありました。長さ、体高、厚みを考え、正確に計っていないので確かではないですが、今までの釣り上げたGTと比べると最大。今回のGTは、僕の中では85kgはあると思っています」
GTを膝に乗せ、その重さを実感。そしてランディング時に浮いていたGTであったが、体力を回復させてからリリースすると、素直に潜っていったという。大久保さんのGTゲームは、しっかりとリリースすることが基本。そのため、記録級とはいえ、計測は二の次ということだ。
「膝に乗せての撮影は、早く終わらせてほしい(笑)と思いました。それほど重かった。正確に計れなかったのは残念でしたが、僕の中ではまだ通過点です。現状で自身の中では最大のGTですが、これ以上のGTをトカラで見ています。100kgを超えるGTは確実にいる。2m半以上というサイズもいると思います」
これまで、大久保さんはGTフィッシングの記録を塗り替えてきた。その数々のGTとの出会いを振り返ると、自分はロウニンアジに愛されていると感じるという。

今回、お世話になったプログレスアローの長井船長。感情を表に出さないタイプの船長だが、今回のGTのランディング時は、その魚の価値の高さを感じ、想像を超える動きを見せてくれたという。

大久保さんの記録となったGTを仕留めたポッパー「G-CUP」。カップ部はボロボロになり、そのファイトの壮絶さを物語っている。

大久保流GTタックル・ロッド

ちなみに大久保さんのタックルは、いつ来るかわからない大型を想定し、特別な理由がない限りPE12号を使用している。そして、そんな大型狙いのGTフィッシングに合わせて、ロッドは前述したようにスミスの「KOZエクスペディション(スピニングモデル)」をセレクト。KOZエクスペディションのスピニングモデルには、S80BGT、S76BTH、S81BTM、S77GT/3という4種類のGT対応モデルがあり、S81BTM以外は大型GTを想定したモデルとなっている。今回は、その中の3ピース(仕舞寸法82cm)モデルのS77GT/3を選んだ。
「以前、コモドドラゴンという人気、高実績のロッドがあったのですが、それをベースにした3ピースモデルになります。コシがあり強さもあるポッピングに特化したモデルで、大型GTのパワー、速い流れの中で掛かったGTにも対応するパワーを備えています。エクスペディションモデルということで3ピース仕様にしたのですが、このロッドの開発には、綺麗なベンディングカーブ、強度面の追求もあり時間が掛かりました。しかし結果として凄く良いロッドに仕上がりました。それまではワンピースロッドが良いと思っており、ワンピースロッドを3ピース化することを考えていましたが、3セクションに分けることを前提に開発。ワンセクションごとに性能を追求して、良い竿に仕上がったのです。2ピースでも4ピースでも、このようなロッドはできません。3ピースのバランスにより、完成したロッドと言えます。信頼できるモデルです」
ちなみにブランクスは、8トン、24トン、30トンの組み合わせで構成されており、多軸カーボンで補強。さらに3ピース仕様のため、ジョイント部分の強度を追求。50kgオーバーのGTを狙うために、大久保さんのこだわりが細部まで詰まったモデルであり、すでに数々の実績をあげている。

大型GT、大型魚を想定してガイドは、オーシャンガイドをダブルラッピングで装着。グリップエンド部は、ギンバルラバーキャップが装着されている。

製品情報
https://www.smith.jp/product/salt/kozexpspinning/kozexp.html

ラインシステム

ラインは、前記したようにPE12号となる。大久保さんが監修したラインだ。最新ラインではないが、信頼している強いラインだという。これにナイロンの180lbに300lbを結束し、先を撚ってスリーブにて留めるラインシステムだ。普段、大久保さんは、GTフィッシングでのメインラインとリーダーの結束には、PEラインをビミニツイストしてダブルラインを作り、それを電車結びで結束している。これはこれまでの経験、そしてテストから100gを超える重いルアーを一日中投げ続けた時に、摩擦系のノットよりも強いというデータがあったから。結束してすぐは摩擦系の結束のほうが強いのだが、何投も投げていると「ビミニツイスト+電車結び」のほうが強度を保てると実感しているという。ただ今回は実験的要素もあってPRノットで結束していたという。それは、今まで170lbのリーダーを使用していたが、180lbにしたことによって、若干結び目が大きくなるのではないかという考えからだという。

リールはステラ18000のHG。大型GTの走りに対して、ハンドドラグで対応したため、12号のステッカーがスレ消えていた。リアのフックも1本伸びていた。

PE12号のメインラインとリーダー180lbは、PRノットで結束。180lbのリーダーと300lbのリーダーはスリーブにて接続。180lbは折り返してダブル、300lbはシングルで接続。ルアーとの結束部分の輪は300lbのシングルとなるため、なるべく小さくなるようにしながらスリーブで止め、リーダのヒゲの部分で25cmほど撚り糸にしてダブルにしてスリーブで止めるリーダーシステムとしている。ヒット時にルアーは飲み込まれ、カップ周りはボロボロになり、リーダーは傷だらけになった。リーダーの先を300lbのヨリ糸にしていて良かったと感じたという。

大型ポッパーと大型を想定したフック

大久保さんのGTフィッシングのルアーは、8割は大型ポッパーを選ぶという。今回、釣り上げたルアーもハンマーヘッドの「G-CUP」だった。
「大型ポッパーをセレクトするのは、多少なりとも小さいサイズが出にくくなるという考えからです。もちろん大型ポッパーに小型GTがヒットしてしまうことはあります。ただ少しでも小型のヒットが減り大型がヒットする確率が上がれば、それが良いという考えです。なんでも釣れれば良いから、小さいサイズのルアー、小さいフックを選ぶのではなく、大型ルアーで大型を狙いたいという考えがあるからです」
ちなみにスプリットリングはヘビークラスの#11。フックはバーブレスだが、ちょっとした引っ掛かりのあるモデルの8/0をセレクトしている。
「安全面を考慮しつつ、ラインブレイクしてしまった時のルアーの外れやすさを考えるとバーブレスであったほうが良い。ただGTは首を振る魚なので少しだけ段差が設けられたモデルを使用しています」

大久保流のGTと
これからのアングラーに伝えたいこと

大久保さんは、数は釣れなくても良いから、大型を釣りたいという考えでGTフィッシングを行う。そのための大型ポッパーであり、大型のフックだ。そしてラインブレイクの可能性がある浅い場所でのGTフィッシングも好まない。
「最近、疲れるからという理由で小さいルアー、プラスチックのルアーを投げる人が多いと感じます。またシンキングのルアーをセレクトするアングラーもいます。バーブを潰さない人もいます。人それぞれとは思いますが、ただ僕の中では、釣れるから、楽だからという理由で、それを使用するのは違うのではないかという思いがあります。自分はこれまで、ロウニンアジの強さをリスペクトし、そして未来のロウニンアジのために世界中でレギュレーションを訴えてきました。楽だから、簡単に釣れるからではなく、釣り方にもこだわりを持って挑んでほしいと思うのです。体力的に難しければ、魚に合わせて自分が身体を作ってくることも必要だと思っています。それが大物釣りなのです。また釣れる時間帯は一瞬のことも多い。そんな時に、小型のルアーで小型のGTを掛けていたのでは、大型に遭遇するチャンスを逃すことになります。常に大型を意識することが大切だと思います。今の若いアングラーたちは、次の世代にお手本になるような釣りを目指してほしいと思っております」
大久保さんのGTフィッシングは、彼の体力が続く限り、今のスタイルで続くだろう。それが、GTに対して失礼でないという考えがあるからだ。そしていつか、更なる大型がヒットすることを信じている。

記憶と自身の記録に残る1匹を釣り上げた大久保さん。皆の協力があってこそ、抱き抱えることができたGTだったという。

釣行の様子のYouTubeはこちら

写真提供:大久保幸三
まとめ:アングラーズタイム編集部

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