連載 平松慶のオフショアワールド vol.8

オフショア講習。
船に立ち考えること~釣り座でどう組み立てて対応するか

『引き出し』という言葉。「経験=対処法」。私はこれを『引き出し』と呼ぶようにしている。気付けば54歳となり、それなりに多くの経験をしてきた。釣りの場面では、それを特に強く感じている。この『引き出し』と言う言葉をイメージして釣りをするようになったのは、釣りの場面で「あの人(例えば、師匠とか)ならどう攻めるだろうか?」という事から。自分ひとり釣れない状況でどうしようか…と路頭に迷った時。私が釣り座に立ち、思い描くことを今回はお伝えします。

オフショア講習。<br> 船に立ち考えること~釣り座でどう組み立てて対応するか

平松慶のオフショアワールド

 

初めて入ったポイント(釣り場)で、どう釣りを組み立てるか?

友達に釣りに連れていってもらい、初めて乗った船。フィールドも未経験。こんな事もあるだろう。30年近くオフショアゲームをやってきた私でも、年に何度かはある。船長の癖や雰囲気もわからない。常連さんは盛り上がっていたり、一緒に行った友達は黙々と釣りをしている…。こんな時は不安であり、対応に頭を悩ませてしまう。

『引き出し』とは、過去に得た経験値。これが少なければ、どうその海に対応すればよいのかが見えてこない。私達(古い者)が初心者の頃には、バイブルがあった。廣済堂出版のアングリング誌や岳洋社のSW誌、枻出版社のソルトワールド誌など。先輩方が文章で残してくれた言葉を思い出し、まずはそのスタイルで攻めた。また、「このエリアは赤金が良くヒットするよ」と情報を持っていたら、最初にそれを試してみる。常連さんらが好んで使っているジグやプラグの形状に近いものを選んでみるのも良い。本当は、船長に聞くのが一番良い。こうした周りを見ながらの釣り始める事は実に大切なのだが、なかなか簡単にはいかない場面もある。こんな時、自身の持つ『引き出し』を引く(開ける)タイミングになる。

ジギングで、常連さんらが釣果を上げているのなら真似る。ジグを真似、早くしゃくっているのか、ゆっくりしゃくるのか、スピニングタックルなのか、フォールを意識したスロー狙いなのか、などを確認しておく。図々しい私は聞いてしまうが、誰もがそのようにはできないだろう。聞けない時は、最初は自分が自信のあるルアーで探ってみると良い。それでダメなら、フィールドに慣れていそうな人に自分を合わせる事が大切になってくる。

ここで一番やってはいけないのは、自分流で突き通すこと。それで当たれば(釣れれば)良いのだが、大半の人は負のスパイラルに巻き込まれていってしまう。そのようになると、何をやっていいのかがわからなくなり、どんどんマイナス面が大きくなってしまうことが多い。そのためにも、釣れている周りに合わしてみる、聞いてみる、といった動きを取り入れる事が釣果に繋がっていく。

ひとりで釣り座に立ち、どの様に攻めるのか。これは、船から見えるロケーションもヒントになる。岸から近い場所で狙うのか、沖で見渡す限りが海面の場所なのか。そしてこれまでの経験で似ているような場所で釣りをした経験と擦り合わせてみる。岸から近いなら、瀬周りや落ち込みなど地形の変化がある場所が多いだろうし、見渡す限り海ならば、沖にある魚礁も思い描ける。こうして目から得られる情報で、組み立てをして探ってみる。タックルから伝わる感触もプラスし、ルアーセレクトに取り入れるなど、様々なことをヒントにすることが大切だ。

釣行

釣行したフィールドが、どのように攻めるのが効果的なのか分からなければ、まずは周りで釣っている人を真似てみる、常連さんのやり方、ルアーセレクトを真似てみることが大切。

フィールドの景色

フィールドの景色から判断することもできる。岸よりなのか、沖なのか、ボトムの形状は、魚礁の有無などで、過去の経験から攻め方を考えてみる。

平松慶のオフショア

試してみたい事、過去に良かったパターンなどを
振り返り実践してみる。

私が初心者の頃にこだわって考えていたことがある。それは「師匠ならどう攻めるのだろうか?」ということ。師匠と言うのは、この場面では自分よりも経験値が高い人。釣り慣れた人がどんな釣りスタイルのセレクトをするのか? このように考えることが、結果として『引き出し』を多く持つことに繋がる。そしてあの時は、この探り方で魚が出てきたが…というような経験の積み重ねが武器となる。過去に良い思いがあった探り方が思い出せたのならば、それを試してみるのもよい。この手、あの手を出して実践し、自分の持っている『引き出し』の中身と重ねながら、探っていくよいにする。

船中誰も当たっていない。このような場面こそ、釣り師の持つ『引き出し』の多さで差が出る時。ジギングならジグのサイズを小さくし、キビキビとした動きにする。逆に大きくしてゆっくりしゃくり、ジグのシルエットを見せて口を使わす。キャスティングなら、高速リトリーブ、ショートポップ、ダイビング。どれもテクニックの例として簡単に挙げられるが、その場で臨機応変な対応が出来ることも、多くの引き出しを持つ経験値の高いアングラーといえる。焦らずに、まずはしっかり周りの様子を把握し、釣れている人の真似をし、もしも自分にバイトがあったなら、それに近い釣りスタイルを試し続けてみる。こうした頭の柔軟さをもって、それが結果に繋がれば、結果として『引き出し』は増えていく。

引き出しを多く持つ

引き出しを多く持つことは、簡単に釣れない状況の時こそ効果を発揮する。釣れたではなく、釣ったということになる。それは、近海でも遠征でも同じことが言える。

ルアー フック

ルアー選びだけでなく、フック選びなどでも、何がそのフィールド、その時の状況に適しているのか、引き出しが多ければ判断できる。

平松流のマストパターン

私自身、今でも釣り座に立ち、自分の釣りをしていてなかなかバイトが無い時は焦る。そんな時こそ、先ほども伝えた「師匠なら、どんな対応をするのだろうか?」を考える。私には、初心者の頃に釣りを教えてくれた方がいる。その人から初めての場所でどの様に釣りを展開していくのかを教わった。そして師匠の釣りを見るだけでなく、過去に釣り雑誌で得たテクニックなども思い出しながら試していった。試した内容で魚からのコンタクトがあれば、『引き出し』は増えていった。どう探って魚がルアーに反応したのか、それをトライ&エラーで繰り返し、結果を糧にしていく。これが増えていく事で技術的にも、経験値も上がっていったと感じている。ルアーゲーム(釣り)において、絶対はない。明確な解答がないのが釣りの面白いところ。もしも、自分自身の釣りスタイルを見失いかけたら、よく通うホームグランド(通い慣れた釣り場)を思い浮かべてみるのも良い。私なら、長崎県対馬がそれにあたり、対馬の魚礁を攻めている、対馬のシャローエリアで狙っているといった感じで、その場所を合わせてみる。するとルアーを操作するアクションや、潮の当たり方も何となく見えてくる。マストパターン、通い慣れた場所を思い出す、これに尽きるのだ。

初めて訪れた海外のGT狙いなら、これまで多く行った沖縄本島の海を思い出す。ヒラマサジギングで韓国に入った時は、対馬の海を想定してジグをしゃくったりもした。そしてどちらも結果を得て「やはり、海は同じだ」と感じられた。魚の着く場所や、集まる流れの位置、こうした部分はホームグランドで鍛えられて身に付いている。イメージを大切にして、狙ってもらいたい。

初めて訪れたエリアでの釣り

初めて訪れたエリアでは、最初は悩むもの。攻め方がすぐに分からない場合は、同船者の真似だけでなく、自分のホームグランドと比べてみるのも大切。

今回は、具体的な釣り方やルアーセレクト等の内容ではなく、誰でも釣り座に立った時に起こり得る「不安」をどの様に回避し、釣りを楽しむかについて書いてみた。『引き出し』を例にして、自分が持っている手数や技、対処法の出し方を言葉にしてみた。実例として、先月長崎県対馬へヒラマサをジギングで狙っていた時のジギング初心者さんは、トラウトアングラーであったのだが、ヒラマサを狙う時にヒラマサでの『引き出し』はゼロであったものの、「ミノープラグを沈み木近くに潜むニジマスを狙うことをイメージして、トゥイッチを入れながらのしゃくる」と伝えたら、トラウトゲームで持っていた『引き出し』を思い出し、見事ヒラマサを誘い出すことができたのである。釣りとは、そんなもの。いかに過去の経験を引っ張り出して試してみるか、こんな場合はこうしてみようか、という柔軟な思考を場面に合わせられるかが重要であり、面白い部分。さらにそれで当たれば、醍醐味となる。きっと、釣り座でひとり悩んだアングラーも多いだろう。そんな境地に再びなった時こそ、この文章を思い出してほしい。

平松慶のオフショア

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AUTHOR

平松慶

神奈川県座間市在住。 K-FLAT代表。オフショアゲームを中心に、自身で釣り具を開発しつつ、その他メーカーからのサポートも受け、プロ活動を続けている。国内外への釣行日数は、多い年では210日を超えたほど。長きにわたりメディアで文章を書き、枻出版社では「平松慶のヒラマサワールド」を発行。その他DVD多数リリース。

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